なぜ、ジェームス・W・ヤングの「アイデアのつくり方」はブローガーの心を鷲掴みにするのか?
「自分にはセンスがない・・アイデアを次々と生み出すことができるのは、生まれつきセンスがある人だけの特権だっ!」
もし、この本を読んでしまったらそんな言い訳ができなくなってしまうので注意が必要です。
ヤングがこの本で単純明快にまとめた手法に従ってアイデアづくりに取り組めば、あなたは自分の能力と素質のすべてを最大限に生かせることになるだろう。 P.7
何度か、この本を絶賛しているブログ記事を目にすることがあり以前から興味があったのですが、「アイデアのつくり方」というタイトルを見る限り、私はデザイナーやクリエイター向けの書籍かと想像していたのですが・・
読み進めるほどに「なるほど、コピーライターやブローガーにドンピシャな内容で、ブローガーが絶賛したくなる理由が約100ページの小さな本の中に、確実に凝縮されている」と感じました。
その理由は、もちろん著者のジェームス・W・ヤングがアメリカ広告業界の重鎮である、というところが大きいのですが・・
アイデアを作るためには5つの段階があり、1つ目の工程が資料を収集すること。ようするに商品やサービスなどをプロモーションする際や、多くに人に読んでもらうためのブログを書こうとした際に、当然のように1番初めに取りかかるリサーチ作業について解説されているからです。
つまりアイデアはセンスのある人の元に突然降ってくるようなものではなく、必要な材料を集めるところから始まり、タイトルのとおりまさしく「作っていくもの」だということです。
もし自分にはアイデアを発想する能力なんて無いと感じているとしたら、まずはじめにちゃんと資料集めをしたのかどうか、それを再確認する必要があるかもしれません。
1. 資料を収集する
第一の段階、資料の収集には特殊資料と一般資料の2種類があります。
特殊資料
特殊資料は《製品と、それを諸君が売りたいと想定する人々についての資料》、初版が1988年なのでこのような表現をしていますが、現在のコピーライターなら《ポジショニングと、ターゲットのリサーチ》という言葉で認識すると思います。
ブロガーであれば《オリジナルコンテンツと、その記事を受け取ってくれる読者のニーズ》という意味合いで解釈すると思います。
一般資料
一般資料についてはこの世のすべてをデータと捉え、さまざまな分野に好奇心を持って知識を蓄えること。
ヤングはここで、あらゆる方面のどんな知識でもむさぼり食う、牛と同じで食べなければミルクは出ない。といった表現をしていますが、この本の初版以降の時代は1996年から2006年の10年間で、世の中の情報量は約530倍にもなっているという総務省のデータがあります。
以降のソースは見つかりませんでしたが、情報は今も確実に増え続けているという現状に対して、人間の脳の処理速度はほとんど変わっていないということを考慮すれば・・
誰もが見ている一般大衆向けに加工された情報をなんとなく受け取るのではなく、自ら能動的に世界最高峰の知を掴みとりに行き、感性を揺さぶられるような作品に触れ、核心に迫るような書籍を手にするなど、自ら意識的に情報を精査する必要はありそうです。
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。:ジェームス・W・ヤング
私は今までこの名言を「うんうん分かる!扇子+自動で扇風機だよな」「グランジとロックでグランジロック♪」と、あまりにも浅はかな解釈をしていたことに気づかされ、この組み合わせとはまさしく・・
アイデアを作るための第一段階、リサーチすることで得られた特殊知識と普段の生活のなかから選び抜いて取り入れることができた一般知識との組み合わせのことを指している、ということがようやく理解できました。
2. 書きとめる
第二の段階は集めた資料を、不完全な形であろうがなんだろうがとにかく書きとめる段階です。
イメージとしては新聞や雑誌などの記事を切り貼りしてスクラップ・ブックのようものを作る感覚ですが、現代ではネタ元はネットニュースやブログ記事といったものも多いので、ソーシャルブックマークやクラウドメモなどを活用することができると思います。
重要なのは集めた資料の順番を入れ替えたり、パズルのピースをはめていくように自由に組み合わせることができるようにしておくことなので、自分にとって使いやすいツールを活用することが大切です。(個人的にはアナログですが大きめの方眼紙が使いやすい)
そしてこの本で1番衝撃を受けた一文を目にすることになります。
しかしやがて諸君は絶望状態に立ち至る。何もかもが諸君の心の中でごっちゃになって、どこからもはっきりした明察は生まれてこない。ここまでやってきた時、つまりまずパズルを組み合わせる努力を実際にやりとげた時、諸君は第二段階を完了して第三段階に移る準備ができたことになる。 P.46
私は集めた資料を組み合わせて、自分以外の人にも理解してもらえるように編集する作業が苦手で、まともな文章も書けずいつも自分の才能無さに挫けそうになっていました(ドラマのシーンのように本当に頭を抱え込もこともあります)、でもそれは・・
自分だけのことではなく、何かを創り出そうとする多くの人が通る、1番苦しいプロセスの一環でしかなかったということ・・
そこをやり遂げた時ようやく次の段階に移行できます。
2の段階では頭がごちゃごちゃになって投げ出したくなります、そこで書きとめるのを止め、考えることを諦めてしまいブログが続かなくなってしまう人も多いかもしれません。その場合フラストレーションばかりが溜まってしまいますが、それに対して、なんとか考え抜き、書きとめた資料を組み合わせて形作ろうと努力した後、そこで放棄することで、自然にアイデアが現れ、解放感とブレイクスルーを味わえることを知っているブローガーもまた少なくないでしょう。
3. 手放す
第三の段階は、考え抜いた問題を放棄して無意識にまかせ感性の揺さぶられるものに心を移します。
アイデアを作り出す5つの段階は、オットー・シャーマー氏の【未来から現実を創造する】U理論との類似する点が多く、創造までの段階には確かに潜在意識を活用するプロセスが存在するようです。
4. アイデアが生まれる
資料を集め、組み合わせを考え抜き、手放したとき、お風呂に入っている時や散歩をしているとき、目覚めとともに、そんなまったく予期していなかったときに突然ひらめいたり、完成しきれなかったパズルの正しい組み合わせが見つかります。
第一の段階で諸君は食料をあつめた。第二の段階ではそれを十分に咀嚼した。いまや消化過程がはじまったわけである。そのままにしておくこと。ただし胃液の分泌を刺激することである。 P.48
5. 送り出す
アイデアは自分だけが認識できる状態ではまだ完成とは言えないようです。
諸君が当初産み落とした時に思っていたようなすばらしい子供ではまるでないということに気づくのがつねである。 P.52
生まれてきたアイデアを具体化して、そのアイデアが実際に力を発揮するべき場所(市場)に送り出すことが最後の段階です。
ヤングは現実の過酷な条件とせちがらさに適合させるため、理解のある人々の批判を仰ぐことの必要性を伝えていますが、実際にひとつのブログ記事でも、多くの人に読まれれば読まれるほど、ある一定数のネガティブなフィードバックを受けることがあります。
批判をすべて真に受ける必要はありませんが、自分ではまだ見落としているアイデアの可能性がフィードバックの中に隠れていて、さらに発展させることができます。
事物の関連性を見つけ出す才能が重要な時代
実質約60ページ(62ページ以降は解説やあとがき)の本ですが、「アイデアのつくり方」の工程が単純明瞭に言語化されていて、文章を書く必要のある広告業の人やブロガーにとって必読書だと感じます。
いや、やはりデザイナーやクリエイターがこのアイデアの作り方を手にしたとすれば、それは単なる視覚的表現に留まらない創造物を作り出せるようになると思います。
- 1. 資料を収集する
- 2. 書きとめる
- 3. 手放す
- 4. アイデアが生まれる
- 5. 送り出す
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない、そして「新しい組み合わせを作り出す才能は事物の関連性を見つけ出す才能に依存する」という表現は、ダニエル・ピンクの言うハイ・コンセプトにも通じます。
「ハイ・コンセプト」とは、パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力、などだ。
ダニエル・ピンク ハイコンセプト P.28
このように、これからの時代を生き抜くためには、膨大な情報のなかから普遍的な正しさを見つけようとするのではなく・・
自分にとって有益な情報や思考、感性などを精査して手元に集め、それらの物事の関係性の中から独自の視点を発見し、新しいものを生み出すことが重要になっていくのかもしれません。
そして、その独自のアイデアが誰かの役に立つように仕立て上げることが、ブロガーの役割でもあるように感じます。